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パートナーや配偶者に浮気をされてしまったらショックですよね…
こんなに人を傷つけたのだから、それに対する罰を受けてほしい!と思ったり、精神的苦痛を受けたのだから慰謝料を請求してやる!と考えるかもしれません。しかし、刑罰を受けさせるためには犯した行為が犯罪である必要がありますが、はたして浮気は犯罪になるのでしょうか?
ここでは浮気が犯罪になるのか、どのような法律に触れるのか、また、慰謝料請求についても詳しく解説します。
そもそも犯罪とは?
法律において、犯罪とは「刑法・刑罰法規」で刑罰を与えることが定められている行為を指しています。刑法は、犯罪者に対して国家が刑罰を与えるための法律であり、検察官が「起訴」することで罪を問うことができるものです。つまり、浮気を犯罪として罪に問うには、刑法にしたがって検察官に起訴してもらう必要があるのです。
しかし、刑法には浮気に関する明文がなく、国として刑罰を与える権限がないため、結局のところ浮気は犯罪にはあたらず、どれほど深く傷つけられたとしても、浮気しただけでは刑罰を与えることは難しいのです。
例えば、他人の財物を盗んだら、刑法235条「窃盗罪」で10年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科される犯罪なのですが、他人の配偶者を盗んでも(他人の配偶者と浮気をしても)犯罪行為にはなりません。
どちらも気持ち的には盗みの行為に感じますが、窃盗罪は客体が他人の財物に限られているので浮気は犯罪にならないのです。
犯罪になる浮気もある
ただし、例外もあります。浮気の相手が18歳未満である場合には、各都道府県や市町村の青少年保護育成条例に違反したとして、刑事罰を受けるおそれがあります。
他にも、重婚(すでに結婚しているのにも関わらず他の異性とも結婚すること)は犯罪とされていて、なおかつ民法上でも不法行為にあたるため、罰金や懲役の刑罰と損害賠償請求の両方を受ける可能性があります。
浮気は昔の日本では『姦通罪』という重罪だった
現代の日本では浮気は犯罪に該当しないのですが、江戸時代から昭和初期までは姦通(かんつう)罪という犯罪がありました。姦通とは、今でいう不倫(不貞)のことです。
姦通罪の刑罰ですが、江戸時代では死刑になるほどの重罪だったようです。また、当時は自分の配偶者と肉体関係を持った相手を殺害しても罪に問われなかったほど、貞操義務が重視されていました。今では犯罪にもならなくなりましたが、殺人が認められてしまうほどのことだったのです。
この姦通罪は、既婚女性と関係を持ったものや既婚女性にだけ処罰し、既婚男性の姦通については処罰しないという物でした。これは男女平等の原則に違反するという考えから、本罪の改正にあたって双方とも処罰するか双方とも処罰しないかが争われ、1947年の刑法一部改正で、姦通罪の規定は削除されることになりました。
今もなお浮気が犯罪になる国も
先に説明したように、現代の日本では浮気は犯罪になりませんが、浮気(姦通)が犯罪になる国や地域は現代でも存在しています。
- アメリカ合衆国の一部(21州)
- フィリピン
イスラム国家では姦通に対して特に厳しく、石打の刑という死刑になります。
犯罪にはならないが、不貞行為は違法!
現代の日本で浮気(不倫)は犯罪にはならないのですが、では法律上何の問題も無い行為なのかと言われれば、答えはもちろん「NO」です。
浮気に不貞行為があれば、民法上の不法行為となります。
詳しく解説していきましょう。
民法とはどのような法律なのか
世の中にはさまざまな法律がありますが、その中でも特に日々の生活と密接しているのが「民法」です。
民法は市民生活における市民相互の関係、つまり財産関係(売買・賃貸借・不法行為など)と家族関係(夫婦・親子・相続など)に関する規定から企業対個人、企業同士の財産権の取り扱いに関する規定など、多岐にわたる範囲で私人間の権利や義務の関係性をまとめた基本的な法律です。
簡単に言えば、私たちの日常生活について定められた法律というような感じです。
たまに刑事事件や民事事件という言葉を聞く事があるかもしれませんが、家庭内の揉め事などはこの民法上の問題であるケースが多いため、刑事事件を主に扱う警察は民事事件には不介入というのが原則です。
もっとも、家庭内の問題でも、暴力(DV)などがあれば傷害罪に繋がることもあるため警察が介入することもあります。
浮気の問題は一般的にこの民法が適用されます。
不貞行為とは?
不貞行為とは、おおよそ不倫と同義語であり、法律的に『配偶者のある者が自由な意思にもとづいて配偶者以外の異性と性的関係をもつこと』を指します。
不倫という言葉は法律用語では無いので、法的には不貞行為と言います。
この不貞にあたる行為としては
- 性交渉
- 性交類似行為 (口淫、手淫、前戯、裸で抱き合う)
などが挙げられ、
- 手を繋ぐ
- 食事をする
- デートをする
- 卑猥な画像や動画、メッセージのやりとり
- 本番行為のない風俗店の利用
などの行為は不貞に当たらないとされています。
また、不貞行為は異性との性的関係に限定され、同性間の不倫は基本的に不貞行為として認められていませんでしたが、2021年に東京地裁で行われた裁判で『同性同士の性的関係でも婚姻生活の平穏を脅かす行為として不貞行為に該当する』との判決が下されました。
これにより、同性同士の性的関係に関する考え方が今後変わっていくだろうという見解もあります。
不法行為は慰謝料請求ができる
浮気(不倫)は犯罪ではないので刑法による懲役や罰金などの刑が科される事はありませんが、不法行為は慰謝料などの請求ができます。
法的根拠としては
民法709条「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を違法に侵害した者はこれによって生じた損害を賠償する責任を負う」
つまり、不貞をわざとや不注意ですれば、それは他人の権利を侵害する行為なので、生じた損害を賠償しなければいけないということなのです。
慰謝料というのは損害賠償の一つで、精神的苦痛に対して支払われる賠償金です。
損害賠償は大きく「債務不履行に基づく損害賠償」と「不法行為に基づく損害賠償」に分けられ、損害は「財産的損害」と「精神的損害」に分けられます。
この精神的損害に対する賠償が慰謝料と称されているということになります。
配偶者に浮気(不倫)をされたことは酷く精神的に損害を受けるため慰謝料が請求できるのです。
不法行為による慰謝料請求には時効があり、原則として被害者またはその法定代理人が損害事実や加害者を知った時点から3年間と定められています。
ただし、損害事実に気づかないまま時間が経過した場合は、権利を侵害した行為のあった時から20年が時効となっています。
このように、配偶者が他の異性と不貞行為があれば慰謝料請求できるのですが、条件もあります。
次の項で詳しく説明いたします。
慰謝料を請求する3つの条件
配偶者に不貞行為があったとしても、条件を満たしていなければ慰謝料請求ができない事もあるので、どのような条件があるか詳しく見ていきましょう。
1.婚姻関係にある・婚姻関係が破綻していない
まず一つ目の条件は、夫婦が婚姻関係にあるということです。
これは法律上の婚姻関係だけでなく、婚約し夫婦同然の生活をしているカップルや内縁の婚姻関係も含まれます。内縁の夫婦も法律上の夫婦に準じて、貞操義務が認められるため、不貞行為があった場合は慰謝料請求が可能となります。
婚姻関係や婚姻と同等の関係ではないカップルの場合これに該当しませんので、いくら相手に浮気をされていても慰謝料請求できません。
また、夫婦が法律上は婚姻関係にあっても、長期にわたる別居(概ね5年以上)をしていたり、調停などで離婚の話を進めているなどの場合で夫婦関係が破綻しているとみなされる間に起こった不貞行為は不法行為にあたらないとされ、慰謝料請求ができないケースもあります。しかし、別居や離婚調停をしていても一方が婚姻の継続を望んでいる場合は破綻しているとは認められず慰謝料請求ができる事もあるなど、判断が難しいケースもありますので、そういった際は弁護士などの専門家に相談する事をおすすめします。
2.自由意思にもとづく不倫であったこと
浮気(不倫)相手に慰謝料請求するときも、「自由な意思にもとづいて性的関係を持ったこと」が一つの条件となります。この「自由な意思」というのは、自らの考えで進んで行動するといったような意味合いを持っており、脅迫や強姦されたのであれば自由な意思であったとは言えません。
たとえば、職場の上司がその地位を利用して無理に性行為をしてきたなどであれば脅迫されたと判断され慰謝料請求が認められない可能性もありますが、多くの場合は断ろうと思えば断れるもので自由意思が制圧されていたとまではいえない可能性があります。
もし、本当にレイプのように無理やり襲われたようなケースでは強制性交罪という犯罪に遭っていたことになりますので、犯した側は刑事罰を受ける可能性があります。
3.故意・過失があったこと
ここで言う故意や過失とは、浮気(不倫)相手が既婚者であることを知っていたにもかかわらず(故意)不貞行為に及んだのか、もしくは注意して知ろうとすれば既婚者だという事を把握できたのにそれを怠った結果(過失)、既婚者と不貞を行ってしまったということです。
東京地裁で行われた裁判の過去判例では、出会った場所がお見合いパーティーだったにもかかわらず、住所・氏名・年齢さらに学歴までも虚偽であったことから、既婚者だという事を認識するのは困難だったと認められ、故意や過失が無いとの判断から慰謝料請求が認められなかったケースもあります。
また、故意があって浮気(不倫)した場合と過失で浮気(不倫)した場合では過失であったケースの方が慰謝料請求の金額が減額される傾向にあり、できるだけ慰謝料を払いたくないor減額させたいと考える不倫相手が「既婚者だとは知らなかった」と主張してくることもあります。
浮気(不倫)の慰謝料の相場は?
浮気(不倫)の慰謝料は決まった金額があるわけではなく、その不倫によって後の夫婦関係がどの程度悪化したかや、婚姻期間や不倫の期間がどれくらいだったかなどによっても変動します。また、高額になりやすい条件もあるので、詳しく見てみましょう。
慰謝料の相場は30万円~300万円程度
浮気(不倫)に対する慰謝料の相場はかなり値幅があります。不倫の事例は大変多く、様々な要素で金額が変わるためです。
慰謝料が高額になるケース
配偶者の浮気(不倫)が原因で別居や離婚に至った場合
不倫を知っても関係を修復し婚姻関係を続ける人もいますが、別居や離婚の道を選ぶ方も多くいます。不倫が原因で夫婦の関係が壊され、さらに別居や離婚という手段を選ばざるを得なくなってしまった精神的苦痛はとても大きなものと判断され、慰謝料の金額は婚姻関係を継続するケースに比べ高額になります。
不倫期間、婚姻年数が長い
知らない間に長期間配偶者が不倫をしていたという事実は、とても傷つきます。また、長年培ってきた夫婦関係を不倫によって一瞬で壊される事も、配偶者にとって大きなダメージです。どちらも精神的苦痛が大きいとして慰謝料も高額になりやすいです。
婚姻期間が30年以上で500万円の慰謝料が命じられた判例もあります。
夫婦の間に小さい子供がいる
夫婦の間に子供がいる場合、家族として重い責任を負っているにもかかわらず、不倫によって家庭が蔑ろになるなど子供に与える影響は大きく慰謝料も高額になる傾向です。また、小さい子供がいて大変な中、配偶者が不倫をしている事実は精神的にも大きな苦痛を与える行為だと考えられます。
約束を破った2度目以降の不倫
過去に一度不倫をして、もう二度としないと約束をしたのに、その約束を破って再び不倫をしたような場合にも高額になる事があります。一度目の時に誓約書を書かせるなどしていた際には約束を破ったことが悪質だと考えられ高額請求が認められやすくなります。
不倫による女性の妊娠や出産
不倫相手の女性を妊娠させたり、不倫している妻が相手の子供を妊娠した場合など、妊娠や出産があった不倫では、精神的苦痛が大きいと考えられるため慰謝料が高額になる傾向です。流産・中絶などになってしまい出産に至らなかった場合でも通常より高くなりやすいのは同じです。
社会的地位や収入が高い
不倫した者の収入が高い場合、低額な慰謝料では大した制裁とならない為一般的な金額より高くなる傾向があります。また、不倫された者が無職などで収入が低い場合でも、不倫のせいで離婚しなければいけなくなった場合にはその後の生活を考慮して慰謝料が高額になるケースもあります。
不倫され精神病になってしまった
慰謝料は精神的苦痛の大きさによってその金額も変動するので、うつ病などの精神疾患に罹ってしまうほど深刻な精神的ダメージがあったということになります。
精神的苦痛を受けたからにはそれにふさわしい金額を受け取りたいものですが、請求相手が不貞を否認する事もあります。そういった事態に備え、不貞があったという確実な証拠を押さえてから慰謝料請求しなければいけません。また、浮気(不倫)を問い詰めるにも、確実な証拠を手に入れてからにするべきです。
まとめ
浮気(不貞)は犯罪として裁けませんが、不法行為をしたとして慰謝料を請求できます。
犯罪と不法行為、どちらの方が悪いと比べる事はできませんが、どちらも人としてやってはいけない事。不貞行為を行った者は、自分の過ちを認めその制裁を受けるべきです。
身勝手な行動でどれだけ人が傷ついたかを理解させるためにも、然るべき法的措置で慰謝料を請求しましょう。
不貞を認めず慰謝料請求から逃げようとする可能性もありますので、確実な証拠を用意してから話し合いをするようにしてください。
もし、慰謝料請求や浮気の証拠を掴むことに不安がありましたら、早めの段階で専門家に相談してアドバイスを受ける事をおすすめいたします。