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「取引先が本当に“存在する”会社なのか?」そんな疑念を抱いたことはありませんか。支払いの遅延、電話の不通、急な担当者変更…。日々の業務の中で起きる小さな異変は、見過ごせば後に大きな損失へと発展することがあります。特に中小企業や零細企業では、与信管理のリソースが不足していることから、取引開始時に相手企業の実態まで確認できていないケースが少なくありません。
本コラムでは、実在しない会社との取引によって発生するリスクや被害、なぜ人は確認を怠ってしまうのかという心理的な背景、そして自社で実践できる実在確認の具体的方法までを丁寧に解説します。さらに、自力調査に限界を感じた場合に頼れる外部調査機関の役割や、探偵事務所が提供できるサービスについてもご紹介します。
信頼関係の土台は、「事実に基づく確認」によってこそ築かれるものです。この機会に、自社の取引管理体制を見直し、危機を未然に防ぐ第一歩を踏み出してみませんか。
「その取引、大丈夫?」怪しい遅延から考える自社への影響
支払い遅延という“予兆”をどう読み取るかで、その後の会社の損失を大きく左右します。中小企業の経営現場では、「取引が始まってしまえば問題ない」と安心しがちですが、実際にはそこに危うい落とし穴が潜んでいることもあります。
支払い遅延が示す“見えないリスク”
最近、いつも通りの支払日を過ぎても入金がない。そんな小さな違和感から、不安を感じた経験はないでしょうか。取引先が中小企業や新興企業である場合、資金繰りの一時的な遅れであることもありますが、その背後にもっと深刻な問題が隠れている可能性もあります。
支払い遅延は、単なる事務的なミスや一時的な資金不足だけではなく、「実在しない企業との取引」である危険性さえ孕んでいます。過去の事例には、何度かの少額取引で信用を得た後、徐々に金額を大きくし、ある日突然連絡が取れなくなるという詐欺的な事例も見受けられます。調べてみたところ、法人登記が確認できず、オフィスとされた住所もレンタルスペースだった、というケースも存在しました。
「実在確認」を怠りやすい背景とは
中小零細企業では、人手や予算の関係で取引先の与信管理や背景確認に時間をかけられない現実があります。紹介を受けた企業であれば、「あの人が紹介してくれたのだから大丈夫だろう」と考えてしまいがちです。しかし、相手が善意であっても、紹介先の実態までは把握していないことも多く、そこに安心しきるのは危険です。
特に、これまで問題がなかった取引先でも、支払いが遅れ始めたタイミングで、初めて「そもそもこの会社、本当に存在しているのか?」と疑念を抱く方が多いようです。支払い遅延という現象は、取引相手の実在性や信用性を見直す“サイン”でもあります。
違和感を放置せず、早めの行動を
一度不安を感じたら、まずは最低限の確認からでも構いません。法人番号や登記簿情報の照合、Googleマップによる所在地の確認、名刺と登記住所の一致など、簡易的な手段で異常を見つけることもできます。それでも不明点が残る場合や、現地確認が難しい場合には、第三者機関の調査を検討するのも一案です。
支払い遅延を「たまたま」と片付けず、「もしかして」という視点で一歩踏み出すことが、自社の損失回避につながります。次章では、実在しない企業がなぜ取引を持ちかけてくるのか、その典型的な目的と手口を詳しく見ていきます。
よくある実在しない会社が取引をする目的と手口

表向きは誠実なビジネスパートナーを装いながら、裏では最初から“逃げる”計画を持って接近してくる会社も存在します。本章では、そうした実在しない会社の目的と典型的な手口を明らかにしていきます。
なぜ実在しない会社が取引に乗り出すのか
取引先が“実在しない”という状況は、にわかには信じがたいものです。しかし、詐欺や不正取引の現場では、「最初から逃げるつもりで作られた会社」との接触は決して珍しくありません。こうした企業の狙いは一貫しており、“少額から信頼を築いて最後に回収不能にする”という手口が多く見られます。
初めは小口の注文を通じて「きちんと支払ってくれる会社」との印象を与え、徐々に取引金額を増やしていきます。こちら側も「過去に支払い実績がある」と判断し、大きな金額の取引を承諾してしまいがちです。しかし、金額が膨らんだところで突然音信不通になり、連絡先や住所を辿っても“存在しない”ことが判明するという流れです。
実在しない会社の特徴とは
こうした“仮想企業”は、最初から逃げ道を確保した設計で動いています。
- 名刺に書かれた住所がレンタルオフィスや私設私書箱
- 連絡先は携帯電話のみ、会社代表電話は存在しない
- 公式サイトはあるが、所在地や沿革の記載が曖昧
- 登記情報の開示を拒む、または存在しない
これらはすべて「一定期間だけ取引して逃げ切る」ための工夫とも言えます。特に中小企業では、営業担当が個人レベルで判断して契約を進めてしまうケースもあり、被害が発覚するころには時すでに遅し、という状況になりがちです。
支払い遅延が始まったタイミングで、「実はこの会社、本当にあるのか?」と立ち止まる習慣があれば、最悪の事態を防げる可能性も高まります。次章では、こうした“実在しない企業”との取引によってどのような損失が起こり得るのか、実際の被害事例から見ていきます。
実在しない取引先との契約で被った甚大な被害ケースとは?
一見、信頼できそうに見えた取引先が、実は存在しない企業だった。そんな事態が現実に起こっています。本章では、実在しない会社との契約によって発生した具体的な被害事例を通じて、実態把握の重要性を浮き彫りにします。
信用していた相手が“存在しない会社”だった
信頼関係の上に築かれたはずの取引が、一転して損失に変わってしまう。実在しない企業との契約がどれほど深刻な影響を及ぼすのか、以下に実際の事例を3つ紹介します。
事例1:納品後に音信不通、支払いゼロ
地方の小規模メーカーが都内の新設企業とOEM契約を結び、試作品と初回ロットの納品を実施しました。しかし、入金予定日を過ぎても支払いが行われず、連絡も取れない状況に……。調査を依頼した結果、登記されておらず、代表者名も偽名だったことが判明しました。被害額は約400万円にもなりました。
事例2:複数企業から仕入れた商品を転売し逃亡
実在しない会社が複数の企業と並行して商談を進め、支払い条件を掛けとした事例も存在します。仕入れた商品を別の販路で現金化し、直後に姿を消す手口です。数社が同時期に被害を受けたことで不正が発覚したものの、すでに手遅れとなり、回収は困難を極めました。
事例3:業界団体の会員を装い信用を得る
業界団体のロゴや名称を無断使用し、「加盟企業です」と名乗って営業を展開。信頼を寄せた複数社が初回取引を行ったものの、売掛金の回収ができず調査を開始しました。団体への加入実績がないことが分かり、架空の存在と判明しました。
このように、実在性の確認が疎かになると、後戻りできない損失に直結するおそれがあります。次章では、なぜそのような“確認”を怠ってしまうのか、心理的な要因を掘り下げていきます。
なぜ取引先の「実在」を確認せずに契約してしまうのか?

多くの中小企業が実在確認を後回しにしてしまう背景には、紹介や人脈による「信用の錯覚」があります。本章では、なぜ確認を怠ってしまうのか、その心理的な要因に焦点を当て、誤った安心感がどのようなリスクを生むのかを解説します。
「紹介だから大丈夫」という心理の落とし穴
取引先が実在するかどうかを確認しないまま契約に進んでしまう背景には、人づての紹介や有名人との接点といった「信用のバイパス」が大きく影響しています。特に中小零細企業では、知人や取引先から紹介されたというだけで安心し、「この人が紹介するなら問題ないだろう」と判断してしまうケースが多く見られます。
また、交流会や業界団体の場で知り合った人物が「この会社の社長です」と自己紹介し、名刺交換をしただけで、すでに実在確認を済ませたような錯覚に陥ることも少なくありません。そこに“有名人と一緒に写った写真”や“業界関係者との交流歴”などが加わると、疑いの目を向けることすら難しくなります。
なぜ取引先の「実在」に疑いを持てなくなるのか
こうした心理には、「相手を疑うこと自体が失礼ではないか」という遠慮の気持ちも作用しています。せっかく紹介してくれた相手に対して、「その会社、本当に存在しているのか」と確認するのは、紹介者の顔を潰すようで気が引ける。その結果、最低限の調査さえ行わずに契約に至ってしまうことがあります。
さらに、人間は「相手が好印象であるほど、疑念を抱きにくくなる」という認知バイアス(心理的傾向)を持っています。清潔な身なりや丁寧な口調、物腰柔らかな対応などが揃っていれば、「この人なら大丈夫だろう」と思い込み、本来必要な確認作業が後回しにされてしまうのです。
取引先の調査を省略した代償は大きい
一見信頼できそうな人物でも、会社としての実在性が保証されるわけではありません。近年では、SNSや名刺管理ツールを活用して「いかにも実在する会社」に見せかける手口も増えています。紹介者自身が騙されているケースもあるため、「紹介だから安心」という考え方は、必ずしも安全とは限りません。
こうした油断が、数百万円〜数千万円単位の未回収被害につながることもあります。「紹介だから」「イベントで会ったから」といった理由で確認を省くことの代償は、決して小さくありません。
不安があれば“確認”をためらわない姿勢を
実在確認は、相手を疑う行為ではなく、自社を守るための基本的な業務プロセスです。法人登記の確認や名刺の裏取り、所在地のGoogleマップ確認など、わずかな時間で済む確認作業を怠る理由は本来ありません。それを「失礼かもしれない」と感じてしまう心理こそが、最も注意すべきリスクと言えるでしょう。
次章では、そうした心理的ハードルを乗り越えて、自社で今すぐできる取引先の実在確認方法についてご紹介していきます。
自社でできる取引先の実態把握のための初歩的な確認方法
取引開始前の基本的なチェックを怠ると、大きな損失につながることがあります。この章では、社内のリソースだけで実践できる、取引先の実在確認の初歩的な方法を紹介します。
最低限押さえておきたい5つの確認ステップ
取引先の実在性を見極めるために、特別なスキルや高額な調査費用は必ずしも必要ありません。実は、企業の実態を把握するうえで有効な「基本の確認ステップ」がいくつかあります。ここでは、自社でできる5つの初歩的な確認方法をご紹介します。
1. 登記簿謄本の取得
法人登記の有無は、企業の実在性を確認する上で最も基本的なポイントです。法務局やオンラインで登記簿謄本(履歴事項全部証明書)を取得すれば、代表者名、所在地、設立年月日などの公式情報が確認できます。
2. 公式Webサイトの確認
会社のWebサイトに「会社概要」「所在地」「代表者氏名」などが明記されているかをチェックしましょう。ただし、見栄えがよく作り込まれていても、それだけでは信頼材料になりません。掲載情報が登記内容と一致するかも合わせて確認することが大切です。
3. Googleマップでの所在地確認
会社の住所をGoogleマップやストリートビューで検索し、実際にオフィスが存在しているかを確認します。レンタルオフィスやバーチャルオフィスといった“一時的な住所”である場合は、注意が必要です。
4. 名刺と登記情報の照合
担当者から受け取った名刺の情報が、登記簿やWebサイトに記載されている内容と一致しているかを確認します。名刺にしかない情報(例えば携帯電話番号のみなど)は、かえって不自然な場合もあります。
5. 電話やメールでの基本的な応対確認
代表番号に電話をかけて、企業として適切な応対がなされるかどうかも重要な判断材料です。個人名での応対や、何度かけても繋がらない場合は警戒が必要です。
これらのチェックは、いずれも短時間かつ低コストで実施できます。次章では、こうした自社確認では把握しきれない深い情報を得るための、信用調査会社の活用についてご紹介します。
信用調査会社を活用するメリットと調査可能な範囲
中小企業では実態確認の人手や時間が限られることも多く、実在調査を外部に依頼するのは有効な手段です。本章では、帝国データバンクや東京商工リサーチといった主要な信用調査会社が提供するサービスの内容や、利用時に留意すべきポイントについて解説します。
信用調査会社の基本的な役割
帝国データバンクや東京商工リサーチといった信用調査会社は、企業の経営実態や財務情報、取引傾向、業界内の評判などを収集・分析し、レポートとして提供します。これにより、相手企業の信用リスクや倒産可能性などを事前に把握することが可能となります。
信用調査会社の調査内容の具体例
- 企業概要:所在地、設立年、資本金、代表者名などの基本情報
- 財務情報:売上高、利益、負債額などの財務データ(入手可能範囲に限る)
- 支払傾向:他社との取引における支払い遅延の有無
- 取引先や関連会社:主要取引先や系列企業の確認
- 代表者の経歴:過去の経営履歴や関与企業の調査
これらの情報は、調査対象企業が提出した内容や、取材による収集、公開情報の分析によって構成されています。
信用調査会社の利用時の注意点
信用調査レポートは万能ではありません。調査時点での情報に基づくため、最新の動向や日々の資金繰り状況などは反映されにくい場合があります。また、同一企業でも複数の支店や事業部を持つ場合、調査対象が限定されることもあります。
また、レポートは「定性的」な内容も多く含まれており、記載された評価や所見は、あくまで参考情報と捉える必要があります。事実確認として活用しつつ、疑わしい点があれば追加調査や別視点からの確認を行うことが重要です。
信用調査会社は「倒産リスクの予測」を主眼としたサービスのため、単なる実在確認よりも広い視点での企業分析に向いています。次章では、さらに一歩踏み込んだ調査を行える手段として、探偵事務所が提供する調査内容について詳しく見ていきます。
自力での限界を感じたら…探偵事務所に依頼できる調査

自社で行える確認作業には限界があります。特に、登記上は存在していても実態が見えにくい企業や、連絡が取れなくなった相手への対応は、専門家の介入が不可欠です。ここでは、探偵事務所が対応可能な具体的な調査内容について解説します。
専門家への相談:探偵事務所との連携
自社での調査に限界を感じた際、探偵事務所に直接依頼する前に、まずは専門の相談員に状況を整理し、適切なアドバイスを求めることも有効な手段です。相談員は、お客様の具体的な状況をヒアリングし、どのような情報が必要か、どの調査機関が最適か、そして費用対効果の高いアプローチについて客観的な視点から助言を提供します。
特に、以下のようなケースで相談員の活用が推奨されます。
- 状況整理: 複雑な取引状況や、複数の疑念が絡み合っている場合に、問題を明確化し、優先順位をつける手助けをします。
- 調査方針の決定: 探偵事務所に依頼する前に、どのような調査が本当に必要か、費用はどのくらいかかるのかなど、具体的な調査方針を立てるサポートをします。
- 適切な機関の選定: 探偵事務所だけでなく、信用調査会社や弁護士など、状況に応じた最適な専門機関の選定を支援します。
相談員は、お客様が抱える不安を解消し、次の具体的な行動へと繋げるための重要な橋渡し役となります。
実地確認で「そこに本当に会社があるのか」を確認
探偵がまず行うのは、登記住所に実際に赴いて企業の活動実態を確認する「実地確認」です。登記上の所在地にオフィスがあるか、表札や看板が掲げられているか、従業員の出入りが確認できるかなど、現地ならではの情報収集が可能です。
これにより、単なるバーチャルオフィスや郵便転送のみの利用か、実際に業務が行われているのかを明確にすることができます。
周辺取材による実態の裏取り
所在地周辺での聞き込みも有効です。ビルの管理人、近隣のテナント、配送業者など、関係者からの情報収集を通じて「この会社は日常的に活動しているか」「いつ頃から入居しているか」といった細かい情報が得られます。これにより、表面上の印象と実態とのギャップを埋めることができます。
過去の履歴調査で「実績」を検証
探偵事務所では、代表者個人や企業の過去の履歴を調べることも可能です。たとえば、過去に倒産歴がある、同一人物が複数の会社を転々としている、過去にトラブルのあった企業の関係者である、といった情報が得られれば、警戒レベルを高める重要な判断材料となります。
探偵調査の強みと注意点
探偵の強みは、「現場」に基づく調査ができる点です。書類や画面上では分からない、足を運んでこそ得られる一次情報にアクセスできます。一方で、依頼内容の明確化や目的外利用の回避など、法令遵守の観点からの注意も必要です。
探偵事務所は、表面に見える“実在”の一歩先を調査するパートナーとして、特に不安を感じたときに有効な選択肢となります。
取引先の「実在」確認は後回しにしない!すぐ動く重要性
企業間取引において「信頼」は何より大切な基盤ですが、その信頼は印象や紹介に頼るだけでなく、客観的な事実に基づいて構築されるべきです。特に中小企業では、与信管理の体制が整っていないことから、実在確認が後回しになるケースも少なくありません。
しかし、支払い遅延や連絡の途絶といった“異変”が見えた段階で即行動することが、被害を最小限に食い止める鍵となります。法人登記や所在地の確認、名刺や公式Webサイトとの照合といった簡易的な方法でも、リスクの兆候をつかむことができます。
信用調査会社や探偵事務所の協力を得れば、より深い情報や実態の裏付けも可能です。特に探偵の現地調査や周辺取材は、書類では得られない一次情報を提供してくれます。
信頼は確認と検証の積み重ねによって初めて成立します。「紹介されたから安心」「今まで問題なかったから大丈夫」といった思い込みを捨て、実在確認を“当たり前の工程”として習慣化することが、企業を守る最善の策と言えるでしょう。
確認すること”は疑うことではありません。企業を守るための当たり前のプロセスとして、取引先の実在確認を習慣にしていきましょう。
少しでも取引先の実在性に疑念を感じるような場面があれば、私たち愛晃リサーチへのご相談も視野に入れてみてください。